
読書の秋ということで、久しぶりのブックレビューのコーナーです。
店頭で案外と声をかけていただき、ムダ話の一環として継続していきたいと思っています。
日々の入魂の商品紹介の合間に、いかにムダを差し込んでいくか、これはずっとわたくしの重要なテーマです。
ムダのクオリティを高めたい。しかしクオリティを高めようと一生懸命になり過ぎてしまえば、それはムダ的なものから離れてしまう。
最適なムダとはなんだろう。そもそも本当に必要なのだろうか。
Don’t Think, Write!!
今日もリー先生の声が聞こえる。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー 上・下』 アンディ・ウィアー
絶対に面白いといわれる作品を味わいたいとして、小説と映画と、どちらを先に?という問題がありますが、この話題のタイトルも悩ましいところでした。
先に両方触れたばかりだった本河さんによれば、どちらが先でも問題ない、Don’t think, read! と言われたので、まず本を読んで、読み終わったらその勢いで映画を観に行こう、というプランでレッツゴーしました。
しかしなかなかの厚さで上下巻ありますから、読み終わるのに時間がかかり、しているうちに公開している映画館や上映回数も減っていきました。ようやく読み終わって、いざ映画をと勇んでみたものの、なかなか時間が合わず、寝坊でキャンセルもあり、とうとう映画館では観ずじまいで終了。その後すぐにアマゾンプライムに入って、では観ようと思って1時間くらい観ているうちに、寝落ちして、現在に至ります。まだロッキーが登場する前の段階でした。
前置きが長くなりましたが、小説はたいへん面白かったです。
僕の趣味趣向的に、SF的な話は相性が悪く、ここのところずっと避けてきた自分にも面白いと思えたという意味で、かなり貴重な出会いでした。
ただ、ちょっと難しい物理的な裏付けを丁寧にしながら展開されていたので、SFとは言えないのかもしれません。ロッキーの存在をSF的存在として見ずに、いかに今の現実の延長線上の感覚で触れられるか、という部分がこの物語の肝になっていて、それが成功しているように思えました。
ハラハラドキドキと感動がセットになった、いかにもアメリカン・エンタメなテイストでしたが、触れれば間違いなく面白い、やっぱり強い、と感じました。

『罪の轍』 奥田英朗
10年前くらいにそれなりの数を読んでいて、久しぶりに読んだ奥田英朗。ほのぼのドラマ系統とミステリー系統とありますが、これは骨太のミステリーでした。
昭和30年代の誘拐事件の話ですが、下町を舞台に人間模様が丁寧に描かれ、じっくりじっくり真相に迫っていきます。いたたまれない結末が待っているであろうことを予感させながら、でももしかすると考えてもみなかった結末があるのかもしれないという期待も、ほんのわずかに感じさせながら、丁寧な展開で物語が進みます。
必要以上に過激な描写はなく、牧歌的な場面も多かったりするのですが、それがかえってリアルとスリルを生んでいるように感じます。頼むよ、頼む、こうであってくれ、と胸を痛めながら読むことになります。
今よりいろいろなことがはるかに乱暴だった時代、大小問わずにいたたまれない事件は多かったことでしょう。
考えてみれば、今、現代も大小問わずにいたたまれない事件は多いように感じますが、内容はずいぶん違うのだろうな、などと思いが至ります。

『夜の谷を行く』 桐野夏生
桐野夏生の史実ベースの小説で、連合赤軍のお話。
ほんのりと興味があるそっち系。ずいぶん昔によど号事件のノンフィクションを読んだことがあり、次はあさま山荘事件に当たろう、と思っていましたが、ここまで触れずじまいでした。
主人公は若かりし頃に連合赤軍で活動した老年にさしかかる女性です。かつての事件を回想しながら、それによって支障をきたしている現在の生活が描かれ、やはり読んでいる方はいたたまれない気持ちになります。
あの時代のあの状況、こういった考えをする人がいて、エスカレートしていってこんなことまでしてしまうのか、という驚きと恐怖があり、同時に人間のリアルな生々しさの発露であることも理解ができてしまい、もう一歩進んだ恐怖を感じます。
思想の内容についてはさておき、『正義』ということの強さ、強過ぎさ、信じすぎた人々の危うさ、みたいなことは、SNS時代の現代においても同様なテーマになっているような気がします。
振りかざす正義は何のためか、知らない別の正義を倒すため。そしてまた全然違うところから別の正義がやってきて、混沌の渦が生まれ続ける。
平和な人は言う、『楽しくやろうぜ』と。

『笑うマトリョーシカ』 早見和真
大好きな作家さん、早見和真の政治家周辺の物語です。
ある政治家とその秘書が話の中心となり、高校時代の出会いから、秘書の完全プロデュースによって政治家としてのし上がっていくという展開ですが、徐々に本当の本当の意は誰のものなのか、というところに焦点が当たっていきます。
政治家(主人公)は人間としての本性がまったく見えず、完全な無個性でありつつも、政治家に必要なものを天性で備えている。だからこそ、関わった人全部が影響を与えてしまうので、最終的には誰の影響でこの政治家は動いているのだろうという疑心暗鬼が芽生え、しだいに話が混み合ってきて、クライマックスまで走ります。
頭のいい人間ほど、人を侮ることは多々ありますが、そのことによってその人は頭がいいとは言えないのではないか、と思うことは多いです。そういったことを経験によって自分で気付きながら成長するのが人間でありーみたいなことも描かれているし、結末は、なんだよそういうことか、という意外性もあり、読み応えがありました。

『しんがり』 清武英利
元読売ジャイアンツの球団代表?オーナー代行?の清武英利のノンフィクション。
ちょっと昔に巨人のフロントでゴタゴタがあったのを僕も覚えていますが、その時の当事者。そのゴタゴタで例のナベツネ氏に球団を追い出され、ジャーナリスト、作家としての活動に入ったということです。
山一証券の破綻を描いたノンフィクションであり、倒産後の後処理を担った『しんがり』と呼ばれた人々を取材した本です。
バブル崩壊の象徴的な出来事とされた山一倒産の、当時の内部の話。なかなかエキサイティングな話でした。
企業がたいへんに調子に乗っていた時代、特に調子に乗っていた金融業界の、急にツケがまわってきて大わらわな状態。外から見たら調子に乗っていたと映りますが、内部には当然調子に乗っていない人がたくさんいたわけで、この真面目な人々の名誉が回復されなくてはいけない、というのがノンフィクションの多いなる存在意義でありましょう。素晴らしいです。
やけに心に残ったのは、売上目標に達しない部下を上司が平手でビンタをして叱る、という描写。本筋とはあまり関係ないですが、80年代、そんなに野蛮な社会だったのね、と驚くしかありません。
その時代を肌で知っている人と、今の若い人で、価値観のギャップがないわけはないよなぁと。

『52ヘルツのクジラたち』 町田そのこ
2021年、本屋大賞受賞作。
タイトルでは何の話か分からない時は、本の裏のあらすじの部分は読まず、できるだけ何も知らない状態で読むことにしているのですが、この作品はまさにそうでした。それでもタイトルや表紙の雰囲気から、なんとなく勝手にイメージはして読みはじめますが、読み進めるとそのイメージがまったく違っていて、自分の短絡的なイメージを裏切ってくれたことがまず嬉しいと感じました。
話としては、ひと言で言ってしまえば悲しい話で、不運な人、不幸を背負わされた人たちの切ない話です。
悲しい話ではありますが、最後に向かっていく方向としては希望の方向なので、悲壮感だけがあるわけではなく、読後感は重いものではありません。
なんとなく透明感を感じる文章で、切なさ、傷み、優しさ、などが静かに表現されて、じんわりと沁みてくるような感覚でした。

『愛と死』 武者小路実篤
剛腕投手のど真ん中のド直球という古典作品。
ミステリ的な物語の複雑さは皆無であり、ひたすらに作家の手腕発揮といった態で、ちゃんと腹から面白いのがすごいです。
あらすじなんてありません。タイトルのままの話で、描写につぐ描写。微笑ましくて、嬉しくなって、絶望的に悲しくなって、もうたまらん、です。
心に残るシーンは、主人公と相思相愛になった後で、夏子が主人公から手紙をもらって、嬉しくて嬉しくて、わたしその手紙を口にくわえて、でんぐり返しをしましたわ、という部分でした。
パリに留学をしていた主人公の帰りを待ちわびていた状態で、いついつに帰るという手紙を受け取った時だったと思います。
帰国したら晴れて夫婦になる約束でした。
しかし、、、
武者小路実篤で一番有名なのは『友情』だと思いますが、こちらもド直球系で同じようにおもしろいです。どちらも純愛が主題の悲劇ということになると思いますが、悲劇の質が正反対であり、素晴らしいコントラストを描いていると思いました。
このくらいにしておきましょうか。
長々と失礼いたしました。
しかし、秋の夜長と言われますが、読書をしている場合などなく、日々追加される新作のチェックでそれどころではないはずです。
10月も下旬に入って、メーカーさんから新作の詰まった段ボールがどしどし届きます。今頃に届く新作はニットやアウターが多いため、なかなかの物量となっていますが、ダンボールを隙間なく、しっかり高さを揃えて積むことで、高さが揃った部分までは消えるので大丈夫です。
僕は学生時代、マサチューセッツのあたりの大学にテトリス工学を学びに留学をしていた経験があるので、こういうことができます。
みなさんが気になるのは、おまえは何を消したんだ?という部分かと思いますが、心配は無用です。手が滑って発注したものだけを消していますので。
そんなわけで、ここまで読んでいただけたみなさんに感謝を申し上げて、終わりのことばに代えさせていただきます。
どの土地も最低気温が着々と下がってきていますので、風邪などひかないようお気をつけください。
