Another cup of tea.


Vanitas : Harmen Steenwijck

 

『道理の分かる人はみんな知っていることですが、魂を悩ます感情の中で、虚栄心ほど破壊的で、普遍的で、根深いものはありません。そして虚栄心の力を否定するものがあるとすれば、それは虚栄心しかない。愛以上に破壊的です。
年を重ねれば、ありがたいことに、愛の恐怖も愛の枷も指を鳴らせば消えてしまいます。しかし虚栄心の鎖から自由になることはできません。愛の傷みは時で癒すことができますが、傷ついて痛む虚栄心を癒すことができるのは死のみです。
愛は単純ですから、みるがままです。それにひきかえ、虚栄心は百もの偽装で人を欺きます。そのうえ、多かれ少なかれ、あらゆる美徳にこれがふくまれているのです。
勇気の推進力であり、野心の活力であり、愛する者に誠実さを、ストイックな者に忍耐を与え、名声を求める芸術家の炎に油を注ぎ、正直者の高潔さを支え、それに代償を与えます。謙虚な聖者の心のなかでも、シニカルに笑っているのが虚栄心です。
これから逃れられる者はいません。防ごうと苦労すれば、その労苦に付けこんで人をつまずかせる。虚栄心の攻撃には打つ手がない。どこを打ってくるかがわからないのですから。誠実さもその罠から逃れる道具にはならない、ユーモアもその嘲りを防ぐ盾にはなりません』

『英国諜報員アシェンデン』(サマセット・モーム)