Book Review.

晴れたり曇ったり雨が降ったり、雨が上がった空を見上げれば、それは既に夏の雲、夏の空でした。

本日はネタ切れ間近の脱線ブログ、Fuzz 読書部でお送りします。
“比較的” 本好きのわたくしが最近読んだ面白い本のおすすめ投稿です。
お店や商品の情報などはありませんので、興味のない人は安心してスルーしていただいて大丈夫です。

 


 

『チャリング・クロス街84番地』 ヘレーン・ハンフ

第二次大戦の直後という時代、アメリカの脚本家の女性が、イギリスの古本屋からひたすら本を取り寄せるお話。この時代ですから、やりとりはすべて手紙で交わされますが、その往復書簡そのままが本文になっています。

ユーモアたっぷりのアメリカ人女性と、絵に描いたようなイギリス的堅物の本屋の男性、それぞれ典型的に見えるキャラクターがくっきりとしたコントラストを為し、二人の書面でのやりとりが味わい深く、じんわりと面白いです。
お客としての生身の声と、本屋の責任者としてのプライドを持った対応が続きますが、だんだんとお互いのことを知るようになり、親しくなっていく様子がなんとも言えず嬉しいのです。
アメリカ人女性の本への愛情、また、本屋の男性とその家族や他のスタッフも巻き込んでの大きな友情、この二つに嘘が無くて美しいと感じます。

本が好き、読書が好き、という人に染み入る魅力を備えた物語だと思いました。

 


 

『チョコレートコスモス』 恩田 陸

少し前にけっこう読んでいた作家さんですが、久しぶりに読みました、恩田陸。演劇のオーディションをメインに据えた新感覚のお話でした。

読み始めてしばらくは丁寧なお膳立てが続くのですが、ある作品のオーディションの場面に入ってくると一気に物語にドライブがかかり、目が離せなくなりました。
おお、この面白さは初めてかもしれない、という感覚で、作中の演劇作品そのもののシンプルな面白さに加え、演技や演出の作為の面白さが存分に描かれていて震えます。
おお、これがプロか、これが天才かと。

僕自身は観劇の経験が乏しいのですが、この本を読んで、是非何か演劇を見たいと思いました。

 


 

『むらさきのスカートの女』 今村 夏子

思えば最近あまり読むことのなかった芥川賞作品。受賞作品と知るより、たまたま『アメトーク』(読書芸人)で見たのが先でした。僕の解釈では、どちらかというと PUNK と感じられた物語で、やはりテイストは芥川賞だなという感想です。

何か普通でないものを感じさせる観察される人、むらさきのスカートの女。しかし実はもっと普通でないものを感じさせる、むらさきの女を観察する人、黄色いカーディガンの女。
何なんだ、このむらさきのスカートの女は、普通の感性なのか、何か秘密を持っているのか、などと思いながら読み進んでいくうちに、なんなんだ、このひたすら追いかけて観察している人は、どういうメンタリティなんだ、と疑問がすり替わっていきます。そして、想像の範囲を少しだけ超えた事態が起こっていき、ずんずんとテンポアップしていって結末を迎えます。

物語としてはどこの部分が面白いのかは分かりにくいのですが、読んでいる時のこちらの心理がなんとなく揺れ動くので、その現象の面白さなのか、という気がしました。そういう意味では、すごく文学的な作品だなと思え、だから芥川賞なのだな、と合点がいきました。

 


 

『店長がバカすぎて』 早見 和真

それなりのペースで定期的に読む早見作品の中で、とても好きな作品です。
舞台は本屋、主人公は契約社員の書店員、リスペクトできない店長に困らされながら、日々奮闘の記。

この本も純粋に本を愛する人物が主人公で、世の中の不条理や諸行無常な出来事に翻弄されつつも自分の仕事を必死にこなすという、すごくリアリティのあるお話です。
働く人すべてが共感できるような、ダメ上司に対するジレンマ、職場のできる人やできない人との微妙な関係性、なんだよ結局は情熱か、みたいなことがたっぷりと描かれつつ、エンターテイメント小説ならではのミステリー的要素も組み込まれた充実の内容です。
読後感も清々しく、分厚い本でもないのに満足感は大きいと感じました。

 


 

『六人の嘘つきな大学生』 浅倉 秋成

気鋭の若い作家さんの人気作品。ある人気IT企業の最終面接を舞台とした就職活動サスペンス。『新卒就職活動』 という要素が主役といっていいくらいかもしれません。
やはり感性に若さを感じ、古い年代の作家にはない、新しい面白さを提示しています。

知識はあるけど経験が無い、人間として不完全、というかむしろかえってたちの悪い知恵を備えた大学4年生、おお、もちろん自分にも心当たりがあります。
そんな学生たちに自己分析を科し、業界研究を科し、愛嬌を求め、ディスカッションで戦わせ、わが社で共に働いてほしい人材を選抜する企業。こうやって客観的に見させれると、すごい世界だな、と思わざるをえませんが、しかし他にどんなやり方が、というのもまた事実でしょう。

最終面接となるグループディスカッションで起こるミステリーが物語の主軸ですが、ここで起こる疑心暗鬼とかけひきが面白く、また謎解きのミステリーも面白く、そして就職活動に対する暗い不満に共感できて、事件そのものが主役の本格ミステリーでは辿り着けない面白さを備えているように思えました。

しかし就職活動というものは、誰もがいい奴に見られようとして嫌な奴になってしまい、それを恐れると何もできなくなってしまい、割り切れた奴が勝ち組となり、勝ち組が集まるとなんだか気持ち悪い奴らに映り、、、いや、これはわたしの個人的な感想か…?
『就活』がさらに主役な小説でいうと、朝井リョウの『何者』がありますが、これはさらに生々しくておすすめです。

 


 

『奇跡のチーム』 生島 淳

気が付けばここからけっこうな年月が経っていました、ラグビー日本代表が南アフリカに勝った2015年ワールドカップ。日本代表がここに至るまでのドキュメンタリーです。

僕自身、なぜか子供の頃からラグビーを観るのが好きで、たまたま地元の近所にラグビーの強い大学があったり、自分が入った大学がラグビーが強かったり、なんとなく思い入れを持って観ることができていました。
そうやって昔からラグビーを観てきた人にとっては、この南アフリカに勝ったという出来事は幸せな驚きでした。

現在、日本代表の監督に再就任したエディー・ジョーンズですが、エディーが2015年のワールドカップへ向けて、初めてチームを任されたところから話が始まります。
エディーがどういう意識で、どういう手法でチームづくりを進めたのか、という話が書かれていますが、結局のところ抜きん出ているのはまずプロ意識なのか、と感じました。
エディーのプロ意識がチームを徹底的に管理し、選手に厳しく結果を求め、とやっているうちに、選手たちのプロ意識も高まります。最終的にはあの南ア戦、最後はエディーの指示を却下して現場の判断でモールを押すという話に胸が熱くなります。

 


 

『果鋭』 黒川 博行

早見和真と並ぶわたし的レギュラー作家の黒川博行、大好きです。
この作品はシリーズものの3作目になりますが、順番通りでなくても問題なく読めます。黒川作品で有名なところだと、『後妻業』というのが映画になっていて知られているかと思います。

簡単に言うと、大阪周辺を舞台に、元刑事の二人組が悪だくみをして金儲けに奔走する話です。ヤクザやその周辺の黒い実業家などから、うまいことしてカネを引っぱり出そうと知恵を絞り、キレのある行動をするのですが、これが大阪弁のテンポのいい会話と共にポンポンと気持ちよく話が進んで行きます。
基本的には騙し合いのコンゲーム系の物語なのでハラハラ感がありつつ、加えて黒川作品ならではの独特の色彩が魅力になっています。
交通と食に関して、普通の小説と比べて描写が詳しいので、土地鑑のある人が読むと一層面白いのかなと思いました。

 


 

『罪と罰』 ドストエフスキー

大げさではなく、20年以上の間、積み本(これから、あるいはいつか読むぞの本)だったのですが、今年の春頃にとうとう読みました。
『カラマーゾフの兄弟』はけっこう前に読んでいて、ちょっと疲れるかなという感想だったもので後まわしにしていましたが、長い年月をかけてようやくその気になりました。

読み終わって思ったのは、単純にカラマーゾフよりはるかに面白い、ということでした。古典であってもスリリングな場面がたくさんあり、ブンガク的えぐりこみは鋭く、スケールの大きい物語だなと感じました。

明瞭な頭脳を持っているからこそのプライドや煩悩、若かりし高慢さ、そこから端を発する深い苦悩。もしかしたら主人公はその苦悩を超越できる天才なのか。いや、超越することで天才の域にたどり着けるということなのか。
どうやら自分は特別のようだと感じる、というのは実はみんなそうなんだよ、そんなことより神を正しく信じ切って、貧しくてもシンプルに生きた方が幸福なんだよ、そんなことを言って思考が停止してしまっている人になったら人間おしまいだよ、渦巻く思考、、

おいおい、君は本当にやるのか、それを本当にやった時点でもしかすると君は本物かもしれない、と感じます。罪であれば罰がある、罰がなければこれは罪ではない、そして、罪にならないのであれば、彼が特別な人間であることの証明となります。
はたして、罰は与えられるのか。
いや、どう表現していいか分かりませんが、読んでいて感情が昂ぶり、自然と思考がはたらくのが文学ということなのだと思い知った作品でした。

 


 

冷房とアイスコーヒーと小説、僕にとっては夏の醍醐味です。
夏が苦手というわけではなく、むしろ好きなのですが、アクティブな夏好きではなく、インドアで涼しい涼しいと言いながら過ごすのが好きです。

他にも、キュウリ、トマト、ナスなどの夏の野菜が好きで、大葉やミョウガといった夏ならではの風味の強い野菜も大好き。涼しい室内で熱いラーメンをすするのも大好き。さらに、夏になると図書館、美術館に無性に行きたくなります。
いやぁ、夏はいいですね。

『素敵な夏を過ごすには、素敵な服があった方がいいに決まってる』
みなさんご存じの通り、新3万円紙幣の肖像に選ばれた小野妹子の残した名言で締めくくりたいと思います。

ということで、長々と失礼しました。
みなさん、暑さに負けず、素敵な夏をお過ごしください!

 

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