Book Review.

7月中旬、某日、関東も梅雨明けとなり、いよいよ本当の夏がやってきました。
みなさま、猛暑にくじけていないでしょうか。

本日はちょっと一息、ブックレビューのコーナーです。
お店や商品に関する情報の無いムダ話枠なので、興味のない場合はスルーしていただき、お時間のある人だけお付き合いください。

 


 

『BUTTER』 柚木麻子

世界的に有名な小説になっているようで、最近よく目に留まっていましたが、僕の積み本山脈に眠っていました。
内容は、実際にあった連続殺人事件をモチーフにしたものですが、サスペンス要素が強いものではなく、ヒューマンな要素が主題の人間ドラマでした。
雑誌記者の女性主人公が、連続殺人犯とされる女性への取材を重ねていくうちに、いろいろな考え方が変わっていきます。価値観が変わるにつれ自分の周囲の人間関係なども変わっていき、トラウマになっている過去との向き合い方も変わっていき、なんだか危うい方へ向かっていって心配になりつつ、でも実は着々と人間的な成長を遂げている、という話です。

30代前半、ある程度の経験を積んでひと通り仕事に慣れ、さらに高みに登るべく、もがきながら自分のスタイルを確立しようと奮闘する年代なのだと思います。それまでは目の前の仕事や娯楽にただひたむきに向き合ってきたところへ、このままでいいのだろうか、自分は何ができるようになったのだろう、何がやりたいのだろう、などと今後の道筋を考えはじめる、という感じでしょうか。

けっこうドロドロした話が多いので、これがイギリスなどで人気というのが意外な感じがしましたが、でもこのドロドロ感は意外と欧米人は描けないのかもしれないなと思い至りました。

 


 

『仮縫』 有吉佐和子

『青い壺』が復刊されベストセラーとなり、話題になっている有吉佐和子作品。『青い壺』を読んでみようと思って探していたら目に入ってきたのがこの『仮縫』。職業柄、こちらの方が興味がそそられました。

詠んでみると、こちらも女性主人公で、仕事を通じての成長譚でした。
日本のファッションシーンが幕開けされたばかりのような時期の、オートクチュールの世界が舞台。洋裁学校に通う若い女性主人公が大御所デザイナーに縫い子としてスカウトされるところから始まり、すぐに頭角を現して健全な野心を抱き、しかし自分とは一まわり二まわり年齢も経験も違う大人に翻弄されて、、というお話でした。
業界の裏側的な面白さもありましたし、爽やかな青春小説としても面白いと思えました。
『仮縫い』というのは、まだ完成されていない状態で、本縫いの前段階のとても大事な段取り。人生においても仮縫いの時期というのがあって、違っているところは何度もやり直しが利くのだ、といったところでしょうか。

そういえば僕の母も若い頃に洋裁学校に通っていたと聞きましたが、そのあたりのおばあちゃん世代は、ミシンが当たり前に扱えたり、手編みや家庭機でニットが編めたり、洋裁に強い人が多いです。その時代は、女性は学歴よりも手に職という考え方が一般的で、洋裁学校はポピュラーな専門学校だったようです。

 


 

『逃亡くそたわけ』 絲山秋子

またまた女性作家。最近になってわたし的ローテーションの一角に入ってきた好きな作家さんです。
完全なロードノベルのスタイルで、精神病院を抜け出した男女二人が九州全土を車でめぐる逃亡の旅。
躁鬱に悩まされる女性主人公と鬱に悩まされる男性との二人旅は、悲壮な雰囲気はほとんど感じられず、くすりと笑えることさえあるのですが、でもだからこそ伝わってくる悲壮があったように感じます。伝えないことで伝わる、みたいな。

全編にわたってロックとブルースが繰り返しBGMとして流れているような感じがあり、疾走感があって読後感も爽やか。
若者ならではの無謀な旅に憧憬の思いさえ湧き上がりました。

 


 

『雨降る森の犬』 馳 星周

20年振りに読む馳星周は、僕の知っている馳星周ではありませんでした。
あのノワールの旗手が、こんなハートウォーミングな人間ドラマを描くとは。

主人公は家庭環境に事情ありの女子中学生。長野で暮らす登山写真家の叔父と一緒に暮らすことになったところから始まり、叔父さんの飼っている大型犬を交えた田舎暮らし、その近所に別荘を持つ、やはり家庭環境に事情のある少し年上の男子高校生との出会いなどを通して、主人公が少しずつ成長していく物語です。
親に対する鬱屈でなんとなく共感して近づいた2人と、それを暖かく見守る叔父さんとバーニーズマウンテンドッグのワルテル。疑似家族のような感じでお互いに寄り添い、信頼し合える関係になっていく様子が心地好いのですが、しかしだからこそ別れは寂しい。
本当の家族でも、疑似家族でも、最後は自立していかなくてはいけませんが、でも帰る場所があるというのはとても大事なことだよなぁと思えました。

 


 

『傲慢と善良』 辻村深月

これも話題のタイトルで、また女性作家。
どんな話かという予備知識ゼロで読み始めたので、最初はサスペンス系かなと思いましたが、かなり人間の嫌な部分を描き出したドロドロ系でした。

婚活で知り合った結婚を目の前に控えた男女が主人公の物語ですが、現代の結婚事情や親子関係、都会と地方の関係など、ある種の典型が容赦なく描かれ、これは身につまされ過ぎて立ち上がれない人さえいるのではないか?と思えたほどでした。
しかし、この話が多くの人に読まれ、多くの共感があるという事実こそ、まさしく、これは自分だけでない、みんなそうなんだ、と励ますことになるように思えました。

『当たり前の悪』みたいな呪いは珍しいわけではなく、どこにでも誰にでもあって、そこから脱出することが、人生の一つの大きなテーマなんだろうな、と思えました。
自分の力で脱出できた時こそ、本当の自分の人生の始まりであり、本当の幸せがつかめるのかもしれないなぁ、などと考えさせられました。

 


 

『我が友、スミス』 石田夏穂

初めて読んだ作家さん、石田夏穂、また女性です。
やはり女性が主人公で、普通のOLがボディビルに傾倒していく物語。まったく分からない世界の話で、しかも女性ということで尚更メンタリティが理解できそうもないと思って読み始めましたが、なんだかすごい理解できました。
主人公は特に上昇志向の強い性格でもなく、ちょっとクセのありそうな内向的な性格ですが、そんなメンタリティでボディメイクに勤しむ姿は、何故かやけにリアリティを感じました。

ジムに通いはじめてそれほど経っていないうちに、ボディビルの大会に出ることが決まってしまい、本格的なトレーニングを開始します。マイナーな性格だからこそでしょう、どんどん深みに突っ込んで行き、本気で取り組むがゆえに、いろいろな新しい発見と経験を続けて、みるみる人間としての自分が輝いていきます。
自分が輝いてくると、周囲の反応が変わってきます。周囲の反応が変わってくると、ある種の快感もありつつ、同時に違和感も感じます。ここで自信がついてポジティブ思考の新しい自分に変身、ということもあるのでしょうが、この主人公はそういう感じにはならず、本来の自分ではなくなってくる恐怖の方が勝った、というふうな感じになり、ここに僕はブンガク的な薫りを感じました。

独特の世界観を持っていて、独特の面白さがあり、いい出会いでした。
ボディビル界隈のことも知ることができて、ちょっとした教養にもなったような。

 


 

『サイラス・マーナ―』 ジョージ・エリオット

ある間隔で必ず差し込む、古典系。例えば聴きやすくて共感しやすいJポップばかりでなく、カルチャーの薫りを感じる古い洋楽も時々聴かないと、という感覚です。
やっぱり触れれば、ひと味違った魅力、面白さがあります。

舞台は19世紀初頭のイギリスのカントリーな地域。主人公は正直者ゆえに絶望を余儀なくされた機織り職人のサイラス・マーナ―。
若い頃に親友と婚約者に裏切られ、信仰にも裏切られ、違う土地からこの地に移り住んだマーナ―は、もう人もキリスト教も信じることができず、自分の仕事だけにプライドを持って孤独な暮らしを続けます。
周囲からは変わりものとして敬遠され、マーナ―の心の拠り所といえば仕事で手にした金貨だけという寂しい生活でしたが、ある日、泥棒に入られ金貨を全て失います。
絶望の最中、また違う事件に巻き込まれ、マーナ―の元に女の幼児が迷い込み、マーナ―は自分で育てる決心をします。
女の子を育てることで、嫌でも近所の人々からの協力が必要になり、コミュニケーションが生まれ、孤独な生活が徐々に明るいものに変わっていきます。
金貨を失ったことで、娘を得られた。娘を育てることで、社会に出ていくことができた。毎晩金貨を眺めることだけが幸せだった毎日と、どちらがよかっただろう。

この話と同時進行で、この地方の郷士の息子ゴッドフリーの話も展開されるのですが、実はマーナ―の手元に渡った娘というのが、このゴッドフリーが隠れて生ませてしまった娘であり、このゴッドフリーの苦悩もマーナ―の苦悩と同時並行で描かれていて興味深い話になっています。

込み入っているようですが、それほど複雑な話ではなく、イギリスの地方に住む人々のくらしをベースにした人間ドラマです。当時のイギリスの文化や風習に触れるのも心地好く、時代に関わらずに面白いものは面白いと感じさせてくれるのも痛快で、やっぱりJポップとは違ったテイストの気持ち好さがありました。

 


 

『悲しみよ こんにちは』 サガン

同じく、最近は着心地が好くて、バランスの取りやすいドメスティックの服ばかり着ているなと感じた時、不意に SAINT JAMES や Barbour を着たくなる感覚シリーズ。
有名な小説ですが、これまで読んでいなかった沢山の中の一つです。

主人公は高校生くらいの年代の女の子、セシル。早くに母を亡くし、開放的な性格の父親と開放的な暮らしをしてきましたが、別荘で過ごすある夏、亡き母の友人アンヌが二人の生活に加わります。アンヌは聡明なしっかり者で、父親と自分とは正反対。ほどなく父とアンヌが接近して結婚することが決まりますが、セシルはアンヌを尊敬して愛しているものの、自由が奪われ、節度を求められることに嫌気がさし、父が変わっていってしまうのも寂しいと感じます。
そこでセシルは、自分の恋人のシリルとアンヌが来る前まで父の愛人であったエルザに協力を頼み、父とアンヌの仲を遠ざける作戦を遂行します。

この作戦によって、父レイモンがエルザにまだ未練が残っていると感じた真面目なアンヌは、直情的に家を飛び出します。本能的に、マズい、と感じたセシルは引き留めようとしますが、アンヌは振り切って車で飛び出して行ってしまいます。

そして、その後、アンヌからの連絡を待っていた2人に届いた知らせは、アンヌが車で走行中、崖から海に転落して死んでしまったというものでした。
事故なのか、自殺なのか、確かめようはありません。

とても、フランス的なものを感じる小説だと思いました。感情や感性の揺らめきが瑞々しく感じられ、シンプルでありながら余韻を残す詩的な物語といいますか。

 


 

いやいや、ずいぶんな文字数となってしまい、失礼しました。
本のレビューを書いたということは、そうです、ムダ話のネタ切れが起こっているということであり、全国各地で警戒が必要です。

夏本番のこの時期、新作の入荷とご紹介は全て済ませていますので、現在は水面下で必要と在庫があれば再入荷を探り、また季節の新作以外の、何かおもしろいアイテムを探す活動をしております。
しかしそうこうしているうちに、次の秋冬シーズンの新作も届きはじめると思いますので、これも店頭に隙間ができてきたタイミングで並べてご紹介していく予定です。
何かと賑やかにしていきたいと考えていますので、ちょくちょくブログやインスタグラムをチェックしてみてください。

ということで、引き続き、体調管理や水の事故などに充分注意していただき、元気に夏をお過ごしください!

 

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Fuzz
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7月21日(月) 定休日
7月28日(月) 定休日
7月29日(火) 夏休み

Book Review.

晴れたり曇ったり雨が降ったり、雨が上がった空を見上げれば、それは既に夏の雲、夏の空でした。

本日はネタ切れ間近の脱線ブログ、Fuzz 読書部でお送りします。
“比較的” 本好きのわたくしが最近読んだ面白い本のおすすめ投稿です。
お店や商品の情報などはありませんので、興味のない人は安心してスルーしていただいて大丈夫です。

 


 

『チャリング・クロス街84番地』 ヘレーン・ハンフ

第二次大戦の直後という時代、アメリカの脚本家の女性が、イギリスの古本屋からひたすら本を取り寄せるお話。この時代ですから、やりとりはすべて手紙で交わされますが、その往復書簡そのままが本文になっています。

ユーモアたっぷりのアメリカ人女性と、絵に描いたようなイギリス的堅物の本屋の男性、それぞれ典型的に見えるキャラクターがくっきりとしたコントラストを為し、二人の書面でのやりとりが味わい深く、じんわりと面白いです。
お客としての生身の声と、本屋の責任者としてのプライドを持った対応が続きますが、だんだんとお互いのことを知るようになり、親しくなっていく様子がなんとも言えず嬉しいのです。
アメリカ人女性の本への愛情、また、本屋の男性とその家族や他のスタッフも巻き込んでの大きな友情、この二つに嘘が無くて美しいと感じます。

本が好き、読書が好き、という人に染み入る魅力を備えた物語だと思いました。

 


 

『チョコレートコスモス』 恩田 陸

少し前にけっこう読んでいた作家さんですが、久しぶりに読みました、恩田陸。演劇のオーディションをメインに据えた新感覚のお話でした。

読み始めてしばらくは丁寧なお膳立てが続くのですが、ある作品のオーディションの場面に入ってくると一気に物語にドライブがかかり、目が離せなくなりました。
おお、この面白さは初めてかもしれない、という感覚で、作中の演劇作品そのもののシンプルな面白さに加え、演技や演出の作為の面白さが存分に描かれていて震えます。
おお、これがプロか、これが天才かと。

僕自身は観劇の経験が乏しいのですが、この本を読んで、是非何か演劇を見たいと思いました。

 


 

『むらさきのスカートの女』 今村 夏子

思えば最近あまり読むことのなかった芥川賞作品。受賞作品と知るより、たまたま『アメトーク』(読書芸人)で見たのが先でした。僕の解釈では、どちらかというと PUNK と感じられた物語で、やはりテイストは芥川賞だなという感想です。

何か普通でないものを感じさせる観察される人、むらさきのスカートの女。しかし実はもっと普通でないものを感じさせる、むらさきの女を観察する人、黄色いカーディガンの女。
何なんだ、このむらさきのスカートの女は、普通の感性なのか、何か秘密を持っているのか、などと思いながら読み進んでいくうちに、なんなんだ、このひたすら追いかけて観察している人は、どういうメンタリティなんだ、と疑問がすり替わっていきます。そして、想像の範囲を少しだけ超えた事態が起こっていき、ずんずんとテンポアップしていって結末を迎えます。

物語としてはどこの部分が面白いのかは分かりにくいのですが、読んでいる時のこちらの心理がなんとなく揺れ動くので、その現象の面白さなのか、という気がしました。そういう意味では、すごく文学的な作品だなと思え、だから芥川賞なのだな、と合点がいきました。

 


 

『店長がバカすぎて』 早見 和真

それなりのペースで定期的に読む早見作品の中で、とても好きな作品です。
舞台は本屋、主人公は契約社員の書店員、リスペクトできない店長に困らされながら、日々奮闘の記。

この本も純粋に本を愛する人物が主人公で、世の中の不条理や諸行無常な出来事に翻弄されつつも自分の仕事を必死にこなすという、すごくリアリティのあるお話です。
働く人すべてが共感できるような、ダメ上司に対するジレンマ、職場のできる人やできない人との微妙な関係性、なんだよ結局は情熱か、みたいなことがたっぷりと描かれつつ、エンターテイメント小説ならではのミステリー的要素も組み込まれた充実の内容です。
読後感も清々しく、分厚い本でもないのに満足感は大きいと感じました。

 


 

『六人の嘘つきな大学生』 浅倉 秋成

気鋭の若い作家さんの人気作品。ある人気IT企業の最終面接を舞台とした就職活動サスペンス。『新卒就職活動』 という要素が主役といっていいくらいかもしれません。
やはり感性に若さを感じ、古い年代の作家にはない、新しい面白さを提示しています。

知識はあるけど経験が無い、人間として不完全、というかむしろかえってたちの悪い知恵を備えた大学4年生、おお、もちろん自分にも心当たりがあります。
そんな学生たちに自己分析を科し、業界研究を科し、愛嬌を求め、ディスカッションで戦わせ、わが社で共に働いてほしい人材を選抜する企業。こうやって客観的に見させれると、すごい世界だな、と思わざるをえませんが、しかし他にどんなやり方が、というのもまた事実でしょう。

最終面接となるグループディスカッションで起こるミステリーが物語の主軸ですが、ここで起こる疑心暗鬼とかけひきが面白く、また謎解きのミステリーも面白く、そして就職活動に対する暗い不満に共感できて、事件そのものが主役の本格ミステリーでは辿り着けない面白さを備えているように思えました。

しかし就職活動というものは、誰もがいい奴に見られようとして嫌な奴になってしまい、それを恐れると何もできなくなってしまい、割り切れた奴が勝ち組となり、勝ち組が集まるとなんだか気持ち悪い奴らに映り、、、いや、これはわたしの個人的な感想か…?
『就活』がさらに主役な小説でいうと、朝井リョウの『何者』がありますが、これはさらに生々しくておすすめです。

 


 

『奇跡のチーム』 生島 淳

気が付けばここからけっこうな年月が経っていました、ラグビー日本代表が南アフリカに勝った2015年ワールドカップ。日本代表がここに至るまでのドキュメンタリーです。

僕自身、なぜか子供の頃からラグビーを観るのが好きで、たまたま地元の近所にラグビーの強い大学があったり、自分が入った大学がラグビーが強かったり、なんとなく思い入れを持って観ることができていました。
そうやって昔からラグビーを観てきた人にとっては、この南アフリカに勝ったという出来事は幸せな驚きでした。

現在、日本代表の監督に再就任したエディー・ジョーンズですが、エディーが2015年のワールドカップへ向けて、初めてチームを任されたところから話が始まります。
エディーがどういう意識で、どういう手法でチームづくりを進めたのか、という話が書かれていますが、結局のところ抜きん出ているのはまずプロ意識なのか、と感じました。
エディーのプロ意識がチームを徹底的に管理し、選手に厳しく結果を求め、とやっているうちに、選手たちのプロ意識も高まります。最終的にはあの南ア戦、最後はエディーの指示を却下して現場の判断でモールを押すという話に胸が熱くなります。

 


 

『果鋭』 黒川 博行

早見和真と並ぶわたし的レギュラー作家の黒川博行、大好きです。
この作品はシリーズものの3作目になりますが、順番通りでなくても問題なく読めます。黒川作品で有名なところだと、『後妻業』というのが映画になっていて知られているかと思います。

簡単に言うと、大阪周辺を舞台に、元刑事の二人組が悪だくみをして金儲けに奔走する話です。ヤクザやその周辺の黒い実業家などから、うまいことしてカネを引っぱり出そうと知恵を絞り、キレのある行動をするのですが、これが大阪弁のテンポのいい会話と共にポンポンと気持ちよく話が進んで行きます。
基本的には騙し合いのコンゲーム系の物語なのでハラハラ感がありつつ、加えて黒川作品ならではの独特の色彩が魅力になっています。
交通と食に関して、普通の小説と比べて描写が詳しいので、土地鑑のある人が読むと一層面白いのかなと思いました。

 


 

『罪と罰』 ドストエフスキー

大げさではなく、20年以上の間、積み本(これから、あるいはいつか読むぞの本)だったのですが、今年の春頃にとうとう読みました。
『カラマーゾフの兄弟』はけっこう前に読んでいて、ちょっと疲れるかなという感想だったもので後まわしにしていましたが、長い年月をかけてようやくその気になりました。

読み終わって思ったのは、単純にカラマーゾフよりはるかに面白い、ということでした。古典であってもスリリングな場面がたくさんあり、ブンガク的えぐりこみは鋭く、スケールの大きい物語だなと感じました。

明瞭な頭脳を持っているからこそのプライドや煩悩、若かりし高慢さ、そこから端を発する深い苦悩。もしかしたら主人公はその苦悩を超越できる天才なのか。いや、超越することで天才の域にたどり着けるということなのか。
どうやら自分は特別のようだと感じる、というのは実はみんなそうなんだよ、そんなことより神を正しく信じ切って、貧しくてもシンプルに生きた方が幸福なんだよ、そんなことを言って思考が停止してしまっている人になったら人間おしまいだよ、渦巻く思考、、

おいおい、君は本当にやるのか、それを本当にやった時点でもしかすると君は本物かもしれない、と感じます。罪であれば罰がある、罰がなければこれは罪ではない、そして、罪にならないのであれば、彼が特別な人間であることの証明となります。
はたして、罰は与えられるのか。
いや、どう表現していいか分かりませんが、読んでいて感情が昂ぶり、自然と思考がはたらくのが文学ということなのだと思い知った作品でした。

 


 

冷房とアイスコーヒーと小説、僕にとっては夏の醍醐味です。
夏が苦手というわけではなく、むしろ好きなのですが、アクティブな夏好きではなく、インドアで涼しい涼しいと言いながら過ごすのが好きです。

他にも、キュウリ、トマト、ナスなどの夏の野菜が好きで、大葉やミョウガといった夏ならではの風味の強い野菜も大好き。涼しい室内で熱いラーメンをすするのも大好き。さらに、夏になると図書館、美術館に無性に行きたくなります。
いやぁ、夏はいいですね。

『素敵な夏を過ごすには、素敵な服があった方がいいに決まってる』
みなさんご存じの通り、新3万円紙幣の肖像に選ばれた小野妹子の残した名言で締めくくりたいと思います。

ということで、長々と失礼しました。
みなさん、暑さに負けず、素敵な夏をお過ごしください!

 

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7月15日(月) 定休日

Book Review.

こんにちは、Fuzz 松崎です。
関東地方も梅雨入りし、木々の緑も徐々に濃くなってきた今日この頃、この週末は真夏を思わせる暑さですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

まだまだ夏もの新作のご紹介は続くのですが、そろそろ脱線ブログもよかろうと思い立ちまして、何かないかなと考えてみました。
最近、本線とは関係ない何かの話題が乏しくて、実はもっとずっと前から、『ムダ話ができていないな』 とスランプに陥っていました。いや、無理するなよ、求めてないぜ、という声があるのは重々承知しておりますが、個人店の味わいみたいなことは必要であろう、また、意味のない軽い話題によって、意味のある本線の話題がより意味の重いものになるのではないか、と信じているのです。

そんなわけで、無理くり絞り出した話題が、数年ぶりとなる読書ネタ。比較的読書好きなわたくしは、大量ではありませんが、コンスタントに本を読んでいますので、ここ最近読んだものの中で、おすすめできそうなものをいくつかピックアップしようと考えました。

 


 

『銀河鉄道の父』 門井慶喜

少し前の直木賞受賞作で、最近映画化がされ、つまり間違いない作品。
宮沢賢治の父親が主人公のお話で、父から子への不器用で深い愛情が淡々と描かれ、最終的には胸をえぐられます。
子の立場で考えれば父親に思いを馳せることになりますし、父親の立場で考えれば、確かな共感と、あとは反省とがあるような気がします。
後半のどこかの場面で、自然と涙がポタポタきてしまい、一旦本を閉じて深く息を吐きました。意外とこれまで感じたことのないタイプの感銘だったと思います。

 

『戸村飯店青春100連発』 瀬尾まいこ

こんどは男兄弟の話で、ちょうど僕も年の近い兄がいるもので、共感の嵐でした。
男兄弟ならではの関係性が上手に描かれていて、弟から見た兄、兄から見た弟の、「親しいけど理解はできていない」という感じに膝を打ちまくりました。男女が分かり合えないのと同じ意味、つまり、「別の生き物だから」 という感覚にもしかしたら近いのかもしれません。兄弟の場合、近すぎて、理解している・されているの錯覚もすごい気がします。不意に理解できない愛情が降ってきたりして、おまえ何を考えているの?みたいな。

しかしこれを女性が書いているのが不思議です。思えば同じように男兄弟を描いた映画 『ゆれる』 も大好きなのですが、これも原作から監督まで女性でした。ある才能を持った女性は、男兄弟のことはすべてお見通しなのかもしれません。
この作品で著者が好きになり、わたし的レギュラーメンバーに加わりました。瀬尾まいこ作品はランダムなローテーションで定期的に読むことになっています。

 

『95』 早見和真

わたし的レギュラーメンバーの、ここ数年エース級の早見和真。年も近いし、感覚も近いと感じていて、定期的に読んでいる作家さんです。
この作品は1995年の渋谷を舞台にした物語であるため、青春ドンズバ世代にはたまらない舞台設定となっています。他の早見作品と比べるとエンタメ要素が強めで分かりやすく面白いのですが、実際には他にもっと好きな作品がいくつかあったりします。ただ、この舞台設定にズバリな方々は周辺に多いと思いますので、やはりそういう意味でおすすめです。『渋谷のファイヤー通りを抜けて、トラ・コンやバックドロップで服を買って…』 といった描写があったりすれば、自然と胸がざわついてしまいます。

話の本筋は、当時の渋谷のチーム(イントネーションに注意)がどうのこうのという話で、なるほど、そういう感じになっていたんだ、というのもあり、純粋に物語としても面白かったです。

 

『明るい夜に出かけて』 佐藤多佳子

主人公は深夜ラジオのヘビーリスナーで才能あるハガキ職人。いろいろとあって心を閉ざすことにして、自らあえて世界を狭くして、リハビリのような生活に入ります。その狭い世界でも、ちゃんと人と人は出会い、自然と関係性ができて、また新しい縁を呼び込んで、というような話です。
やっぱり世の中いろいろな人がいるなと、親しくならないとその人のことなんて分からないよな、とか、当たり前のことを思いました。
じんわり染みる、いいお話です。

 

『日本人のための第一次世界大戦史』 板谷敏彦

何かで知って、ずっと積んであったのをようやく本。しかし読めば面白い。自分的には、世界認識のため、というジャンルです。
大学入試の選択が日本史だったこともあり、けっこう基本的な知識が薄い状態だったので、とても有意義でした。

近代ヨーロッパ史の基本のキになる部分であり、この政治的社会的背景を踏まえて、新しいカルチャーが生まれ、拡がりという次の段階の理解へ進めるというものでしょう。
とにかく、現代へと通じる流れの源流みたいなところだと思いますし、この近辺の時代は総じて熱量がすごいわけですから、自然面白い時代という位置付けになるのだと思います。
現代のヨーロッパ社会への理解には欠かせない部分でもあると思いました。

 

『パイド・パイパー』 ネビル・シュート

第二次世界大戦下、フランス。イギリスの老紳士が、たくさんの子どもを引き連れ、なんとかイギリスに帰ろうとするお話。すごく好きなタイプの小説です。
イギリス老紳士のジェントルマンシップを軸にして、第二次世界大戦下のヨーロッパのリアルな風景を舞台にして話が進みます。主人公のハワードさんを応援しつつ、無邪気な子どもたちにハラハラしつつ、気が付けばスリリングなクライマックスに突入している、という見事な展開。
実際にほとんどこの戦争中に執筆された作品のようなので、本当にこうだったのだなと認識して読むことができます。ダンケルクの撤退がフランスの人たちにどれほど衝撃的なことだったのか、占領兵のドイツ軍人がどういう感じで振る舞っていたのかとか、これがリアルなんだなと思えるのです。

フランスの海沿いの町をまず目指して、そこから船でイギリスに渡ることをイメージして一行は進むのですが、要所をドイツ軍に占領されてしまい、なかなか思い通りの道を進めずに苦労します。まず目指したのがブルターニュの漁港サンマローだったのですが、どこかで聞いたぞと思ったら、先日ご紹介した RELATIONS DE VOYAGES が生まれた土地でした。

 

『オイディプス王・アンティゴネ』 ソポクレス

いずれ演劇を観てみたいと思っているお話で、自分的には、教養のため、というジャンル。
紀元前のギリシアの戯曲ですが、内容がしっかりおもしろいから素晴らしい。軽く2000年以上前でも、人間はそうそう変わらないというか、こういうお話を面白がっていたのかという意味でも面白いと感じます。

『オイディプス王』は、運命に翻弄された王の悲劇の物語。
『アンティゴネ』は、オイディプス王を失った後の続きのお話で、人の正義とは何ぞやというのがテーマに据えられつつ、結局、結末は取り返しのつかない悲劇で幕を閉じるという物語。
アンティゴネの話は、人間としての正義と国家としての正義が違ってしまった挙句、このような悲劇が起こるのだ、という感じですが、これは現代に置き換えると、人間としての正義と会社などの組織の正義が相反してしまった場合…、やはり悲劇が起こるのだ、となる気がします。
わたしの正義は公開である、組織の正義は隠ぺいである。わたしの正義を押し殺すことで、組織の多くの人が安泰でいられるとしたら。

 


 

このくらいにしておきましょう。
やっぱり面白かったものの話はスラスラ書けるので、話題に困ったらこれだなと思いました。
もっと映画の話や音楽の話なども書ければいいのですが、、、それは今度、誰かにお願いしてみようかなと今思いつきました。
本なら僕でなくてもあの人とあの人がいるし、映画ならあの人がすごい観てるし、写真ならあの人がいるし、神宮球場にはあの人が行っているし、音楽のライブならあの人、47都道府県をすべて旅したあの人、、

いよいよネタが尽きたわたくしの次なる手は、著作権フリーな趣味人を狙います。僕でなくても、よく買い物をしていただいている人ならば、Fuzz らしさは担保されるはず。

ということで、ムダ話ブログでした。
気温と湿度が上がってきましたので、革靴や冬服の保管状況を一度見直しておきましょう、と最後に有益そうな内容をねじ込んで終わります!

 


 

■おしらせ

6月24日(土) 11:00 – 17:00

次の週末24日土曜日、営業時間に変更がございます。
たいへん恐縮ですが、ご来店の際にはご注意賜りますよう宜しくお願いいたします。

 

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